29th
稲船氏:
売れないと来月の給料がもらえない,というシステムじゃないんですよね。売れなくたって来月の給料が確保されます。そのシステムのなかで働いて慣れてしまっているので,それに対して,もっともっといいゲーム作らなきゃ,という意識が弱くなっちゃったんです。「だってちゃんと言われたことはやってるもん」みたいな。
4Gamer:
耳が痛い人も多そうです……。
稲船氏:
とくに,例えば日本で50万本売れて満足するっていうのは,数字見てるの? と言いたくなります。確かに50万本はすごいけど,じゃあそれで20億円の利益を生んだとして,開発費いくらかけて,プロモーションにいくらかけて,本社経費いくらで営業経費いくらで……ということを考えていくと,20億じゃ済まないんですよね。
4Gamer:
確かに,PS3の大作クラスともなれば,20億,30億の開発費は当たり前ですしね。しかしプロデューサーであれば,さすがにそれくらいの数字はみているのでは? そこで何をするかは人それぞれだとは思いますが。
稲船氏:
いや,本当に見てるなら,もっと世界に向かうはずですよ絶対。例えばPS3なんかだと,50万本,60万本で大ヒットですよ今。その本数で,高騰を続ける開発費がまかなえるはずないんです。
4Gamer:
いえ,さすがに意識はしてるのでは? と思うのです。甘いですか?
稲船氏:
甘いです。
4Gamer:
うーん……最近各社の決算報告を見ててしげしげ思うんですけど,カプコンほどの会社であっても年間の当期純利益が80億ほどですよね(編注:平成21年 3月期)。キャッシュフローはちょっとここではさておくとして,80億の利益の会社が,20億30億の案件を複数走らせるということ自体にもう無理がきてると思うんです。
稲船氏:
そうですね。おっしゃる意味はよく分かります。
4Gamer:
つまりそもそも,次世代機が台頭してグラフィックスのクオリティが格段に上がり,それに伴ってコストも格段に上がった時点で,既存の手法のビジネスが崩壊して,一社が多くの作品を丸々抱えて,開発からパブリッシュまでやるということが,多くの場合で不可能になりつつあるということは,もう明白だと思うんです。
DSも3DSになった時点で開発費は上がってしまいますし,いままでのように気軽に――いやもちろん気軽にゲームを作る人なんていませんが――参入することができなくなってきますよね。そういう状況の中で,そんなのんびりしたことが許されるものなんでしょうか。
稲船氏:
だからこそ危機なんです。
ともあれそういう状況下で,雇い主たるパブリッシャに甘えてる人達というのは多いんです。もちろんみなさんがよくご存じのように,独立してちゃんとしたデベロッパとして頑張ってる人達もいますが,それとて,パブリッシャが有利な日本のゲーム業界の中では,どんなにデベロッパに実力があっても,それを発揮できてない人ばかりなんです。
4Gamer:
パブリッシャが有利,というのはどういう部分を指してますか。
稲船氏:
これを言うとパブリッシャの人に嫌われるかもしれませんけど,パブッリシャ自体が,デベロッパに対して「下請け根性」を強要するんです。この金額でこの期間で絶対に納めなさいとか,クオリティはさておくとして,これくらいの売上本数を目指しなさい,とか,そういうことを強いるわけです。
むろん,なんでもかんでも好きなものを作らせろというつもりは毛頭ありませんが,ブランド力のあるクリエイターや実力のあるクリエイターの多くも,結局のところはそういう部分に屈してしまっているというのは否定できません。
4Gamer:
海外なんかではそのへんがもうちょっとうまく回ってる気がしますね。
稲船氏:
そうですね。パブリッシャが「飼っている」デベロッパもむろんありますけど,海外は独立系が多いんですよね。独立系は,ヒット作を作って,自分達が大きくなって,会社を売却したりIPOしたり,そういうことで一気に莫大なお金が入ってくる,アメリカンドリームみたいなものがあるわけじゃないですか。
4Gamer:
対する日本は?
稲船氏:
成功すれば吸い取られ,失敗すればオマエのせい。これじゃあどうにもなりません。クリエイターを大事にしようとか,クリエイターを育てようとか,ゲーム産業自体がそういうレベルに全然達していないんですね。カプコンだって同じ状況です。
そしてこれは,とてもまずい状況だと思うんです。早く変化を及ぼすべき問題なんです。